外部バッテリー不要の超小型デバイスを可能にする超小型電源システム

Energy Harvesting, IoT, Biomedical, Optical Power Transfer

Researcher

德田 崇トクダタカシ

東京工業大学
科学技術創成研究院未来産業技術研究所 教授

德田研究室

サマリー

  1. 太陽電池とキャパシタからなる超小型電源システムを開発。
  2. 電源システムを含めて数mm以下のデバイスを実現可能。
  3. あらゆるもののIoT化や生体埋め込みデバイスに利用可能。

力の常時供給をあきらめることで“超小型”を実現

 德田教授が開発したのは、超小型のデバイスに組み込む超小型の電源システムです。「超小型のセンサーや情報処理システムは次々に開発されていますが、それらを駆動するための超小型電源システムはまだほとんど存在しません。このため、電源は外部に設けなければならず、“超小型”のメリットを生かし切れていないのが現状です。そこで、『小さい』ということを最優先にして電源システムの開発に取り組みました」と、德田教授は語ります。

 電源の超小型化のために德田教授が選んだのは、太陽電池です。太陽電池は、ワイヤレス電力伝送のために広く利用されている電磁波方式と異なり、小型化しても電圧が下がらない、環境光でも発電できるなどの特徴があるからです。しかし、太陽電池を超小型化すると、当然ながら発電量はごくわずかになってしまいます。「そこで、接続されたセンサーなどに電力を常時供給することを思い切ってあきらめ、『間欠駆動』に特化することにしました。太陽電池で発電した電気をキャパシタにため、一定電圧に達したらスイッチをつないで電力を供給するという仕組みにしたのです。竹筒の中に水が一定量貯まったら傾いて音が鳴る『ししおどし』と同じ方式です」と德田教授は説明します。

 この仕組みは単純ですが、発電量がわずかな中で実現することは簡単ではありません。キャパシタの電圧を監視するにも、スイッチをつなぐにも電力が必要だからです。そこで德田教授は、電力制御回路に工夫をこらすことで、電圧監視やスイッチ接続のために必要な電力を最小限に抑え、貴重な電力を電子機器に間欠的に供給する技術を確立しました(図1)。

図1 超小型電源システムの構成(左)と動作イメージ(右)
(左)超小型太陽電池で発電した電気をキャパシタにためる。電圧検出回路で一定電圧に達したことを検出したら、センサーなどの負荷回路にスイッチをつなぐ。赤枠で囲んだ制御回路を工夫することで、制御に使う電力を最小限に抑えた。(右)キャパシタの電圧が一定値(VTH)に達したら負荷回路に電流を送って駆動し、電圧が一定値(VTL)まで下がったらスイッチを切って電気をためる。結果的に、負荷にはパルスが送られることになる。

超小型化によって広がる可能性

 德田教授は、開発した超小型電源システムをLEDと一体化した発光デバイス(図2)や簡単な情報処理システムと一体化したデバイスも試作し、動作させることに成功しています。「超小型電源で動くデバイスをつくるのにも苦労はありましたが、いちばんの山は越えられたので、今後は、実際に役立つ機能をもつデバイスへの適用を研究していきたいです」と德田教授は抱負を語ります。

図2 LEDと超小型電源システムを組み合わせた発光デバイス
大きさは約1mm。太陽電池によって一定量の電気がたまると、LEDが点灯する。左下の画像は、実際に点灯した様子。このデバイスは動物の体内で動作することが確かめられた。

 具体的には、どのような用途が考えられるのでしょうか? 超小型電源システムを使ったデバイスは、電力がたまったら動作するという仕組みであるため、基本的には動くのを待つしかありません。そこで、そういった動作法でも問題なく、超小型というメリットが生きる用途が対象となります。

 德田教授は「大きな用途は、モノをインターネットにつなぐIoT(Internet of Things)関連のデバイスです」といいます。例えば、現在は物品のトラッキングや在庫管理のためにバーコードでIDを読み取る方法が主流ですが、超小型電子タグをつくれば環境光で動作してIDを発信してくれるようになり、作業が大幅に効率化されるでしょう。名札に超小型電子タグをつければ、ある空間にいる人員を把握することもできます。また、超小型センサーをつくれば、温度などの環境モニタリングが可能となります。IoTをさらに進め、あらゆるモノをインターネットにつなぐIoE (Internet of Everything)の実現にも貢献することでしょう。

 德田教授が想定するもう一つの用途は、生体埋め込みデバイスです。「私自身、皮膚に刺すタイプの超小型グルコースセンサーを開発していますが、今後は体内に埋め込むタイプが主流になると予想されます。超小型電源システムは、このようなセンサーにうってつけです」と德田教授は言います。皮膚はある程度光を通すため、皮下に埋め込んでも太陽電池による発電が可能なのです。電力がたまるのを待てない場合は、皮膚に光をあてれば、すぐに電力がたまって動作します。

柔軟な発想で新たな使い方を考えたい

 しかし、IoTデバイスや生体埋め込みデバイスを開発し、社会実装していくには企業との共同研究が欠かせません。そのため、電子タグなどのIoTデバイスについてはチップメーカーやシステムメーカーと開発に向けた共同研究を、生体埋め込み型のデバイスについては医療系のアカデミアや医療機器メーカーの基礎部門と実用性証明のための研究を行いたいと、德田教授は考えており、いずれの分野でも「共同で具体的な目標を設定して、開発を進められるとありがたいですね」といいます。

 もちろん、IoTデバイスも生体埋め込みデバイスも、超小型電源システムの使い方のほんの一例に過ぎません。德田教授は「柔軟な発想で新たな使い方をともに考えていけるような企業の方々と共同研究できれば」と考えています。また、何かと組み合わせてデバイスをつくるのではなく、とにかく小さい電源システムがほしいという企業との共同研究も歓迎だといいます。

 「太陽電池を利用するときは、最大効率で電力を取り出すために複雑な制御をするのが王道ですが、私たちは『簡便性』と『確実性』を優先して『ししおどし』方式を採りました。簡便で、待っていれば確実に電力を供給してくれることが、この電源システムの使いやすさにつながっています」と、德田教授は超小型電源システムの特徴を強調します。さらに、将来的には、太陽電池だけでなく、安全性が高くて寿命も長い「全固体電池」を組み込むことも検討しています。

 こうした特徴を生かし、超小型電源システムの可能性をさらに広げるために、德田教授は、使い方のアイデアを共同研究先に求めているのです。


参考リンク

Flintbox
Ultra-Simple, Optical Power Transfer/ Energy Harvesting for Micro-Electronics
https://oip-titech.flintbox.com/technologies/bb06cb22-2c08-4b57-a082-9c20d9444264

德田教授による技術解説動画(新技術説明会)
https://www.youtube.com/watch?v=uwigeUOqrc0